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高松高等裁判所 平成9年(行コ)6号 判決

徳島市北島田町一丁目一二五番地

控訴人

清水寛

右訴訟代理人弁護士

小川景士

右補佐人税理士

野田義郎

徳島市幸町三丁目五四番地

(送達場所 高松市丸の内一番一号 高松法務局総務部)

被控訴人

徳島税務署長 白川清之

右指定代理人

前田幸子

松本金治

川西克憲

改田典裕

川村勲

和泉康夫

大喜多山治

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が平成四年三月一三日付けでした次の各処分を取り消す。

1  控訴人の昭和六三年分所得税の更正のうち、総所得金額二三五一万六二二九円、納付すべき税額七一三万八〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成五年一二月一七日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

2  控訴人の平成元年分所得税の更正のうち、総所得金額一四四八万六九七九円、納付すべき税額三二四万一六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成五年一二月一七日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

3  控訴人の平成二年分所得税の更正のうち、総所得金額一一二八万〇二九〇円、納付すべき税額一九六万三五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

第二事案の概要

原判決の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるからこれを引用する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も控訴人の本訴請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その理由は、次のとおり補正・付加するほか、原判決の「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりでるからこれを引用する。

1  原判決の補正

(一) 一三枚目表六行目の末尾に続けて「また、仮に右家事費ノートの「税8000清水から受取」との記載が、控訴人が武男に本件建物の控訴人ら居住の敷地の固定資産税相当額を支払い清算していたことを意味するものであるとしても、それは、土地の面積比から割り出した正確な金額ではなく、およその分担額であることが窺われるうえ、税金の支払行為も、武男の名義で控訴人が納付していたというものではなく、控訴人が武男に対して内部的に分担していたというにすぎないものであるから、これら金額や負担行為の態様は、互いに独立した生活をしていたことを証する資料とはなり得ないというほかない。」を加える。

(二) 一六枚目表一一行目の末尾に続けて「更に付言すれば、仮に控訴人主張のように、家事費を控訴人らと武男夫婦が三対一の割合で分担していたとしても、それは、およその分担であり実費の清算ではないから、二つの家計の独立性を意味するものではない。」を加え、同裏三行目の「生活している」を「生活し、有無相扶けて日常生活の資を共通にしていた」に改める。

2  控訴人の当審における主張について

(一) 控訴人は、所得税法五六条所定の居住者と「生計を一にする」ものとは、「有無相扶けて日常生活の資を共通にしていた」ものであり(最高裁昭和五一年三月一八日判決)、立法の沿革からいえば、扶養控除が行われる扶養親族であることが前提になっていると考えるべきであるところ、租税は、憲法上、租税法律主義の原則により、その賦課、変更は法律の定めによらなけらばならず、したがって、法規も厳格な解釈がされなければならないので、右の「生計を一にする」ものについて、「同一の生活共同体に属し、日常生活の資を共通にしていること」などというような広い概念に解釈することは、憲法上の右原則に反するものといわなければならない旨主張する。

しかし、所得税法五六条の「生計を一にする」ものが扶養親族であることを前提としているという控訴人の解釈は、独自の見解であって、採用できず、また、控訴人と武男が有無相扶けて日常生活の資を共通にしていたことは、既に判示したとおり(引用・補正した原判決の説示)である。

(二) 次に、控訴人は、右の「生計を一にする」ものではないことを証する事実として、原審において主張していた事実に付加して、武男方の電話は、大部分、ヤマト有限会社が使用していた旨主張する。

そこで検討するのに、補佐人野田義郎の陳述書(甲四六)、電話料金の領収書(甲四七の1ないし17)、ヤマト有限会社の商業登記簿謄本(乙一八)及び弁論の全趣旨によれば、ヤマト有限会社は、本店を武男方に置き、控訴人夫婦や武男夫婦が役員となり、武男が代表取締役であった会社であり、同人方の側に建築される「東洋荘」を所有するなど、不動産の管理、賃貸等を業務とする会社であること、武男宅の電話は、ヤマト有限会社宛てにその料金の請求がされているが、回線使用料は住宅用であることが認められ、同事実によれば、武男宅の電話は、同人が経営していたヤマト有限会社が契約したものであるが、同会社は、武男や控訴人らの家族が経営する同族会社であり、法人と個人の区別が明確にされていた様子が窺われない上、回線料は「住宅用」であったから、電話の使用者は、法人であるヤマト有限会社ではなく個人であったとも考えられるから、このような会社の実態に照らすと武男宅の電話を使用していたのが専らヤマト有限会社であったとは即断できない。他に、前記控訴人の主張する事実を認めるに足りる証拠はない。

(三) その他、控訴人は、武男夫婦の居住部分と控訴人らの居住部分は別であったこと、食費等は三対一の割合で負担していたことなどを重ねて主張するが、これらの事実によっては、控訴人と武男夫婦が「生計を一にする」ものではないと認定することはできないことは、前記認定及び引用した原判決の説示のとおりである。

第四結論

よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 豊永多門 裁判官 髙橋正)

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